患者の自立について

一人で悩まないことが賢い患者への第一歩

【いい病院・いい医師のポイント】 (1)万人にとっての「いい病院・いい医師」は存在しない(2) 患者に歩み寄れる医師 (3) コミュニケーションに努力する医師
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長
辻本好子(つじもと・よしこ)さん
1948年、愛知県生まれ。82年に医療問題の市民グループにボランティアとして参加。「いのち」をめぐる問題に関心を持つとともに、患者の主体的な医療参加の必要性を感じ、90年にCOMLを設立。電話相談、患者塾、病院探検隊、SP(模擬患者)グループなど、さまざまな活動を通して、患者の自立支援に取り組む。

患者が受け身では「よい医療」に出会えない

このような活動を始めたきっかけについて教えてください。
  1990年にCOML(コムル)を設立する以前の8年間、私は医療事故被害者を救済する市民団体の事務局をまかされていました。最初は、世の中にこんなに多くの医療事故被害者がいるという事実にカルチャーショックを受けましたが、やがて「なぜ、このような医療事故が続出するのだろう」という疑問に変わっていきました。
医療事故の相談にやってくる患者さんたちの受診行動を見てみると「おまかせします」と言って医療者に治療のすべてを委ねているのに、自分たちが思うような結果にならないと急に被害者意識が出てくる。さらに裁判が始まると、「裁判は弁護士さんにおまかせします」また、自分の裁判のことなのに「わからないことがあるけど怒られそうだから聞けない」とも言う。そういう患者さんたちの態度に接したときに、「ちょっと待って。医療でも受け身、裁判でも受け身。それじゃ何も変わらない。患者が医療訴訟に勝訴しても日本の医療はよくなるわけではない」と思ってしまったのです。
それ以来、「患者の主体性とは何だろう。主体性を身につけていくためには、何が必要なのだろう」ということが私の命題になりました。そして、模索を続けていく中で、「自分自身がどのような医療を受けたいのか、あるいは治療を受ける中で自分が果たす役割は何だろうか」ということを、私たち患者はこれまでまったく考えてこなかったことにハタと気づきました。
この気づきが原動力となり、COMLを立ち上げたときに「賢い患者」「いのちの主人公」「からだの責任者」という言葉が次々にキーワードとして出てきました。そして患者の自立支援こそ私の仕事であると思い定めたのです。
賢い患者になるために必要な心構えとは何ですか?
賢い患者になるためには5つのポイントがあります。
それは、
  1. 自分が病気の持ち主であるという自覚をする。
  2. 自分がどのような医療を受けたいのかを考える(意識化)。
  3. 自分の気持ちを医療者に伝える(言語化)。
  4. 医療者とのコミュニケーションづくりに努力する。
  5. 一人で悩まないで、誰かに相談する。
  この中で患者さんに一番伝えたいのは、5番目の「一人で悩まないこと」です。さらに「誰かに相談する」という行動がとれると、1〜4のプロセスに進むことができるため、これが賢い患者への第一歩であると考えます。
電話相談では「よい病院を紹介してください。腕のいいドクターはどこにいますか」と簡単に情報が手に入ると考えて聞いてくる人がほとんどです。しかし、一般的な医療情報を入手できたとしても、それが自分にとってどのような有益性があるのか、またそれを利用できるのかどうかが判断できなければ、必ずしも満足な結果につながるとはかぎりません。「自分にとってのよい病院、よいドクター」にめぐり合うためには、まず患者さん自身が病気の持ち主であることを自覚し、どのような医療を受けたいのかを考えることが不可欠なのです。そして、医療とは不確実なものであり、限界もあるということを認識したうえで、妥協も含めて自分が納得できる答えを探し出すことです。私たちCOMLは、そのための支援をしていきたいと、さまざまな活動を続けています。

お互いに半歩ずつ歩み寄る姿勢を大切に

患者と医師は"病気を治す"という同じ目標に向かって一緒に走り続けるパートナーなのに、お医者さんとの関係がうまくいかないと悩んでいる人も少なくありません。何かよいアドバイスを。
  よりよい関係を築くためには、患者もドクターもお互いに"この人と出会えてよかった"と思えることが何よりも大切だと思います。それには、まずお互いに半歩ずつ歩み寄る姿勢が必要で、相性の問題はそこから判断していけばよいと思います。
私は4年前に乳がんを患い、治療を続けています。あるとき、主治医が諸般の事情で病院を退職され、別の病院に勤務されることになりました。一時は転勤した主治医のいる病院に転院することも考えましたが、それよりも新しい主治医との信頼関係をつくることだと思い、コミュニケーションづくりに努めました。以来、1年半にわたって自分なりに努力したものの、新しい主治医は診察室で一度も私の目を見ながら話をしてくれませんでした。だんだん違和感が強くなり、5回目の受診で、私は以前の主治医の勤務先に転院することにしたのです。
そのときに感じたのは、主治医と合うか合わないかは自分が判断するものだということ。合わないと思えばお医者さんを替えてもいいのです。けれども、新しい主治医とのコミュニケーションづくりに努力を重ねた1年半も無駄ではありませんでした。私は主治医との関係において、心地よくコミュニケーションできることを最も重視していることがわかり、自分の価値観がクリアになりましたし、以前の主治医に対するゆるぎない信頼感にも気づきました。
現在、主治医とは、とてもいい関係が築けています。3カ月に一度の受診ですが、診察室に入ると診療を補佐するナースが「辻本さんがお見えになるのを、先生はすごく待っていたんですよ」と声をかけてくれることがあります。そう言ってもらえるのは、患者としても嬉しいことです。

繰り返しになりますが、お互いに「この人と出会えてよかった」と思える人間関係になれるように、患者も「きちんとあいさつする」、「伝えたいことはメモして準備する」、「納得できないことは何度でも質問する」など、ドクターにすべてをまかせるのではなく、努力できるところは努力すべきなのです。
ドクターとのコミュニケーションづくりのツールとして、COMLでは『新・医者にかかる10箇条』という小冊子を発行しています。ぜひ、みなさんにも活用していただきたいと思っています。
医療者とのよりよい関係をつくるために患者が心得ておきたいことは?
  1999年の「横浜市立大学病院患者取り違え事件」以来、これまで秘匿されてきた医療ミスが次々と明るみに出るようになりました。本来ならば、これらの記録から私たち患者も自分たちはどうするかということを学ばなければならないのに、現実は違います。「だから医者は信用できない」とばかりに攻撃の刃が医療者に突きつけられ、社会には医療不信がまん延しています。
その結果、医療者は萎縮し、医療現場は活力を失い、危機的な状況です。これは、医療界の旧態依然とした体質が引き起こした事態であり、医療者自身も原点に立ち戻り、患者との向き合い方を真剣に考えていかなければなりませんが、このまま患者が一方的に批判していくだけであれば、医療は破綻に向かうだけです。今こそ、両者がお互いの立場を思いやり、半歩ずつ歩み寄ることが最も求められている時期ではないでしょうか。
患者がこぶしを振り上げて、医療者に「変われ!」と迫っても反発こそあれ、相手は変わることはないと思います。それよりも相手に共感することによって医療者も素直に変わることができる。それが成熟の道筋だと考えます。日本の医療を変えるのは患者自身だということを肝に銘じてほしいのです。

現在、COMLでは医療者を対象とした「医療者のホンネと悩みホットライン」を計画中です。2006年10月に3日間だけ開設しますが、そこでは医療現場の愚痴や悩みも含めて「本来、患者さんにこうあってほしい」という医療者の思いも聞き取り、そういうものを患者との共有財産にすることで、お互いに半歩ずつ歩み寄るきっかけをつくれないだろうかと考えているところです

賢く病院を選ぶためには医療制度の知識も必要

ふだん病院にかからない人でも準備しておきたいことはありますか?
  医療は高い買い物ですし、医療機関を選ぶというのはいくつかを見比べて選択するわけですから、多少は無駄なお金も使わなければなりません。元気なうちは医療機関や医療者と接する機会は少ないでしょうが、ふだんから健康相談ができる「かかりつけ医」を見つけていくことも、医療機関を選択する目を養う一つのトレーニングになります。医療は誰が受けるものでもない。あなた自身が受けるものです。ですから、こうしたトレーニングを通して、自分なりのものさしを徐々につくり上げることが必要です。
また、医療改革が急ピッチで進められている時代の中で重要になってくるのは制度の知識です。医療の仕組みがどうなっているのか、今後どのようなことが変わっていくのか、アウトラインだけでも知っていたほうが医療機関を選択するときに賢い選び方ができるでしょう。
医療の仕組みを自分で勉強できる人はごくわずかだと思いますが、COMLをはじめ、さまざまな場所で学ぶことができますので、積極的に勉強会に参加し、医療制度の情報もあらかじめ入手しておきたいものです。
 
構成・文/渡辺 千鶴
【COMLからのお知らせ】
「医療者のホンネと悩みホットライン」を開催

患者と医療者の本音をお互いに知るために、スタートから16年間で4万件近くの「患者のホンネ」を聞いてきたCOMLが「医療者のホンネ」を掘り起こすホットラインを開設します。

2006年10月14日(土)〜16日(月)の3日間、医療者の皆様、どうぞ医療現場の生の声をお寄せください。
<ホットライン専用電話番号:06−6365−6225>
詳しくは、COMLホームページをご覧下さい。   http://www.coml.gr.jp/kouen/index.html
病院探しのコツ
患者の自立について
 

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