躁うつ病(気分障害)

躁うつ病といっても、その3分の2以上は、うつ症状だけを呈するもので、躁とうつを循環する型は3分の1以下、躁症状だけを呈するものは3%といわれます。

躁とうつの状態を合わせたもの

躁うつ病は、気分の高揚を主症状とする躁病(躁状態)と、この反対に気分の抑うつを主症状とするうつ病(うつ状態)を合わせてひとつの病名としたものです。いずれの病状も気分障害という共通点があり、気分(感情)障害ないし情動障害ともいわれます。躁状態とうつ状態が周期的に現れ、病状が鎮まる寛解期[かんかいき]にはほぼ正常な状態に戻るのが普通です(図19―12)。

この病気では、まず生命感情の障害が起こり、気分の変化に伴った思考、態度ならびに行動の面における特徴的な変化が生じてきます。

うつ病相(うつ状態)の症状


悲哀感、思考や行動の異常

精神症状の基本にあるのは抑うつ気分(抑うつ感情)で、患者さんは、「気が沈む」「気分がすぐれない」「何を聞いても見ても楽しい気持ちがしない」などと言い、周囲のことに興味、関心を失います。この気分は表情や動作に反映され、悲しげで活気がなく、意気消沈しています(図19―13)。

気分には日内変動[にちないへんどう](1日の症状の変化)があり、朝がもっとも悪く夕方になるとやや軽快する人が多くみられます。

【思考の異常】

思考がうまくまとまらずささいなことの決断に時間がかかり、能率が低下します。「頭がはたらかない」「集中できない」「テレビを見ても内容についていけない」などと訴えます。思考内容は悲観的となり、過去を振り返り後悔し、未来に対して絶望感を抱きます。自己評価は低下し強い劣等感、自責感をもちます。罪業妄想[ざいごうもうそう]、心気妄想[しんきもうそう](ちょっとしたからだの不調を重大な病気ではないかと思い悩む)、貧困妄想[ひんこんもうそう]は、お年寄りのうつ病でしばしばみられます。

【行動の異常】

行動面でも活動量および活動意欲の低下がみられます。表情の変化や身振りが少なくなり、動作も動きが乏しく、うまく行えず、緩慢でおっくうそうにみえます。起床、着替え、化粧、食事の支度などをすることが難しくなり、やり始めても長くかかってしまいます。対人関係、家庭、仕事など社会的機能が損なわれます。

行動の抑制がさらに強くなると一切の意志活動を停止して、無言、無動でまったく反応のない状態であるうつ病性昏迷[びようせいこんめい]となってしまい、このような場合には入院治療が必要となります。

多彩な身体症状が必ず出現する

うつ病では身体症状が必ず出現することを認識しておきましょう。

身体症状がみられるといっても、うつ病に特有なものはありません。睡眠、食欲、性欲といった生の欲動、生のリズムに関した症状と、体内のはたらきを調整する自律神経系に関するものが主となります。

【不眠】

不眠(睡眠障害)は初期よりみられ、特に、早朝覚醒[そうちようかくせい](朝早く目が覚め、耐えがたい不快気分に襲われる)はうつ病では頻度が高いものです。

このほか、入眠障害(寝つきが悪い)、熟眠障害(よく眠れない)、中途覚醒(何度も目が覚め眠った感じがしない)などさまざまな不眠がみられます。不眠は自殺の予告徴候としても見逃せません。

【食欲減退】

食事も砂をかむようであったり、味覚がまったくなくなったと訴え、食事がほとんどとれずにやせてきます。

【性欲減退】

男性ではED、女性では月経不順、無月経、不感症となりますが、うつ病の回復とともに改善します。

【その他】

便秘、唾液や涙の分泌[ぶんぴつ]減少、口渇[こうかつ]、頭痛、頭重、視力や聴力の障害、心悸亢進[しんきこうしん]、呼吸困難、胸内苦悶[きようないくもん](胸苦しい)、胃・十二指腸潰瘍、頻尿、尿閉、四肢末端の冷え、抜け毛、易疲労感[いひろうかん](疲れやすい)、寒さに対する抵抗力の低下、全身の痛みなど、実に多彩な身体症状が出現します。

自殺願望が起こることがある

自殺念慮[じさつねんりよ](死にたいと思うこと)や自殺企図[じさつきと](自殺をくわだてる)は、うつ病の治療や看護をするうえでもっとも注意すべき問題です。病気の初期、回復期に現れやすい症状です。

そのほか、不安、焦燥(いらいら)、離人症状[りじんしようじよう](ものを見てもぴんと感じられない、自分が自分でないような気がする)、強迫症状[きようはくしようじよう](自分では不合理と思う考えが頭から離れない)などの精神症状もみられます。

躁病相(躁状態)の症状


感情、気分はそう快で高揚し、行動は活発、思考過程は早く、時には観念奔逸[かんねんほんいつ](観念が過剰に現れて、全体として統一のない観念群をしゃべりまくる)となり、誇大観念[こだいかんねん]や誇大妄想[こだいもうそう]もみられます。

精神および行動面の抑制がなくなり、次から次へと手を出して休むひまもない行為心迫[こういしんぱく]も出てきます。睡眠時間は減少しますが、活発に活動し、疲れを知りません。表情も元気そうでいきいきとし、食欲や性欲も高まります。朝早くから起き出し、昔の知人などに電話したりし、金づかいが荒く、無遠慮となり、行動の制限や忠告に対しては怒りっぽくなり、不従順です(表19―5)。

家庭での看護が難しい場合も多く、そのようなときは入院が必要となります。

治療の基本は、休養と薬物療法


休養と薬物療法が現代の治療の主流であり、それに併せて支持的精神療法を行います。薬物療法にはガイドラインがあります(図19―15)。また、症状によっては、電気けいれん療法や断眠療法、持続睡眠療法、認知療法なども適宜用います。

すでに述べたように、うつ病は病相が周期的に出現しますので、極端なことをいえば、何も治療をしなくても休養していれば、ある時期がくると自然によくなる性質をもっています。しかし、薬物療法を行うことにより、より安全で迅速に患者さんのさまざまな愁訴を取り除き、自殺の危険を防ぎ、寛解[かんかい]状態に導いてくれます。最近は、軽症のうつ病も多く、ほとんどの患者さんを外来で治療できます。