不安障害、強迫障害(神経症)

心理的な原因によって起こる

これは一般にノイローゼといわれているものです。

国際的な診断基準では、神経症という病名は使われなくなってきています。

普通心因と性格、パーソナリティ

原因には、いろいろなものが考えられています。Aの原因で発病するノイローゼ、Bの原因で生じてくるノイローゼがあるのではなく、いろいろな原因が重なり合い、その人のパーソナリティ(本来の人となり)と絡み合って、あるタイプのノイローゼが起こってくると考えるのが適切でしょう。

心理的原因には、直接、発病に関係している心因と、遠い心因とでも申しましょうか、その人の人生のかなり早い時期(乳幼児期から小児期にかけて)に根があって、現在にも影響を及ぼしつづけているような心因もあります。前のものが普通心因と呼ばれているものであり、後のものはいってみれば準備条件のようなもので、性格とかパーソナリティといわれているものと同じと考えればよいでしょう。

対人関係をめぐるこころの葛藤[かつとう]がある

発病の引き金になる心理的な原因にもいろいろあります。もっとも多いのは、対人関係をめぐっての葛藤です。あまりかかわりのない人との間に生じた葛藤なら、ほどなく消えていきます。たまたま出会った人と気まずくなっても生活には影響ありませんし、うんと地位の高い人に叱られても1週間後までしこりが残ることはないでしょう。しかし、家族や兄弟、あるいは友人や職場の同僚との間で対人関係がもつれると、いつまでもこころのしこりが尾を引くことになりかねません。

喪失体験がこころの負荷に

喪失体験も注目しておかねばなりません。喪失体験にもいろいろなものがあります。近親者の死亡、遠方への転居(心理的には、なじんだ住居を喪失することになります)、火事、財産の損失、閉経、定年など、多彩です。

これらのことに共通するのは、その人にとって大切なものを失ってしまう、という体験です。喪失体験につづく悲哀感は、その人が自覚する程度にはあまりかかわりなく、かなり大きなこころの負荷となるものです。

神経症のさまざまなタイプ


神経症は多彩な症状を出しますので、症状によっていくつかのタイプに分類されています。

以下に、そのおもなものを説明します。

不安神経症

現実生活での危険などには関係なく起こってくる不安感が中心症状となる神経症です。人間の生活には不安感はつきもので、病気、死、仕事の破綻[はたん]などが起こらないかという不安をこころのうちに抱きつつ、人は日常生活を営んでいます。不安神経症の患者さんはそのような並の不安ではなく、常識の枠を超えた不安感のために、その人の生活がスムーズに営めなくなっています。

恐怖症[きようふしよう]

ある一定のものに実際とは不釣合な恐怖感を持続的に抱くものです。当人自身も不自然だとはわかっているのですが、それに直面すると、不安、緊張、恐怖をコントロールできなくなります。例えば、たいていの人にとってヘビは気持ちよいものではありませんが、ヘビ恐怖のあまり、縄など長いものを見ただけで怖くて立ちすくんでしまうようになれば、その人の日常生活は損なわれることになります。このように恐怖症患者の恐怖や不安は並外れているのです。

対人恐怖症[たいじんきようふしよう]

恐怖症という同じ言葉で表現されているけれど、少し事情の異なるものに対人恐怖症があります。国際的には、社会恐怖という言葉で呼ばれています。これは他人と自分との関係に強い緊張と不安を抱くノイローゼです。

日本人は全体的に対人緊張が強い人種であるともいわれていますが、対人恐怖の患者は人前で極端にあがってしまい、日常的な人付き合いが非常に困難になります。対人関係が急速に複雑になり始める青年期に発病することが多く、恐怖の現れ方はさまざまです。

強迫神経症

その人の意思に反して、ある考えがくり返し頭に浮かんできたり、ある行為をくり返さないと安心できなくなる神経症です。そのような考えや行為がばかげていることを、当人はよく理解しています。ふと思い出したメロディがくり返し頭に浮かんだり、本を机の縁と平行にきちんと置こうとしたりするようなことは、普通の人にも起こることです。ガス栓を閉めたりかぎを掛けてもう一度確認するというのもよくあることですが、10回確かめても安心できなくなると、生活に支障が出てきます。

抑うつ神経症

気分が落ち込み、悲観的になり、やる気が起こらず、何ごとも楽しめず、集中力も落ちた感じになります。夜はあまり眠れず、食欲や性欲も落ち、大したこともしていないのに疲労感が起こってきます。精神機能や行動へのブレーキがうつ病ほどには強くなく、不眠もさしてひどくはありません。うつ病では午前中気分が悪くて夕方になってくると少し元気が出てくるという気分の変化(日内変動)がありますが、抑うつ神経症ではそのようなことがあまりみられません。

症状のうえではうつ病よりも軽いのですが治療には時間がかかり、1年2年、時に数年かかることもあります。

ヒステリー

ヒステリーという言葉は神経症の分類の中ではもっともポピュラーなものでしょう。しかしポピュラーになりすぎて意味があいまいになっていること、ヒステリー性格と呼ばれるものと病気としてのヒステリーとの混同が起こっていること、ギリシャ語の子宮を語源とする言葉で、いろいろと偏見が重なっていることなどの理由で、医学の領域でこの言葉は使われなくなっています。

従来のヒステリーという表現に代わって、最近では解離性(転換性)障害という言葉が使われるようになっています。これは、激しく情緒を揺り動かされる体験をしたり、トラウマ(心理的外傷)によって、意識やパーソナリティのまとまり感が部分的にあるいは完全に崩れる状態です。

手や足が麻痺[まひ]したり、知覚が麻痺したり、脳の障害ではなく全身のけいれん発作を起こしたりすることもあります。

【PTSD】

1995年に阪神淡路大震災が起こった後、被災者に対する心のケア活動が熱心に行われました。その報道の中で、PTSDという言葉がよく使われるようになりました。これは(心理的)外傷後ストレス障害の英語表現を略したものです。

いのちにかかわるような恐ろしい体験をしたとき、そのストレスが後々までつづいてさまざまなこころの症状を出してくるものです。地震や台風のような大型自然災害だけではなく、目の前で家族が事故死した、テロリストに拘禁されたなどの恐怖体験によっても起こります。もとの体験に関連したこと、例えば、配偶者が目の前で交通事故死した人が急ブレーキの音を聞いて、事故当時の激しい恐怖感を再現させてしまうなど、恐怖を再体験(フラッシュバックといいます)することがよくあります。事故の起こった道を通らないなど、原因となった体験に関連するものを避けるようになります。また趣味を止める、人付き合いを減らすなど、日常生活の間口を狭めます。感情の動きが低下したり、興味の幅が狭くなったり、集中力が低下したりします。事件・事故の直後は平気であったり健気[けなげ]に事後処理に専念していた人が、一周忌の法事のときに突然PTSDの症状が出てくる(記念日現象)こともあります。これは単なる悲哀感やこころの痛みではなくて病気ですので、精神科の治療を受ける必要があります。