鉄欠乏性貧血[てつけつぼうせいひんけつ]

鉄欠乏性貧血は、もっとも多い貧血です。血液検査により鉄欠乏を示す種々のデータがそろえば診断は容易です。重要なことは、鉄欠乏をきたした原因の検索です。

【鉄欠乏の原因】

鉄欠乏を起こす原因は、摂取不足、需要の増大、過剰な喪失、吸収不全などが挙げられます(図7―6)。

1回の妊娠で、胎児に利用される鉄、分娩時の出血や授乳などで失われる鉄を合わせると、約1gの鉄が失われるといわれています。

また女性は、月経などで鉄を失う機会が多いので、鉄欠乏性貧血が若い女性に多いのは当然といえます。

成人男性や、閉経後の女性の鉄欠乏性貧血は、まず消化管出血(胃[い]・十二指腸潰瘍[じゆうにしちようかいよう]、胃がん、大腸がんなど)が疑われます。痔[じ]からのたびたびの出血でも鉄欠乏性貧血が起こります。

貧血に気づかないことが多い

貧血の一般の症状である顔色が悪い、動悸[どうき]、息切れ、疲れやすい、耳鳴り、集中力の低下、寒さに敏感などのほか、鉄欠乏症が高度になると、爪がもろく欠けやすくなり、そり返って中央部がくぼんだスプーン状になる(スプーン状爪)こともあります。また、口角炎、食道粘膜が萎縮して食べ物が飲み込みにくくなる嚥下障害[えんげしようがい]や、幼児では普通は口にしないものを食べる異食症[いしよくしよう](泥、粘土、氷などを食べる)がみられることもあります。

鉄欠乏性貧血は徐々に進行してくることが多いので、からだがその状態に慣れてしまい、貧血の程度が強いわりに自覚症状が軽い人が多いのは驚くほどです。

鉄欠乏の原因となる基礎疾患が存在する場合でも、それに伴う症状がみられるとは限りません。

鉄欠乏の対処法と治療


【正しい対処法】

鉄欠乏性貧血はもっともありふれた貧血です。そのために、貧血があるというだけで、正しい検査、診断をしないまますぐに鉄剤を処方する医師、あるいは鉄の入っている増血薬を買って服用する患者さんをよく見かけますが、これは有害無益です。鉄剤を服用する前に、鉄欠乏性貧血であることをもう一度確認してください。

もうひとつ大切なことは、鉄欠乏を生じた原因(例えば消化管の潰瘍[かいよう]、がん、子宮筋腫など)を明らかにし、それに対する適切な治療をすることです。

鉄欠乏状態は、鉄剤を服用すれば治ります。食べ物から摂取できる鉄の量は限られているので、食事療法だけで“貧血”を治すのに必要な量の鉄を補充するのは無理です。

鉄含有量の多い食べ物を表7―1に挙げましたが、もっとも含有量の多い乾燥ヒジキ、焼きのりでも1日200〜300g、レバーは1kg食べないと鉄剤1錠と同量の鉄を摂取できないからです。

【鉄剤の正しい飲み方】

治療は鉄剤の経口投与が中心になります(1錠中に鉄として50〜100mgを含有しており、1日1〜2錠の服用で十分です)。吸収された鉄はまずヘモグロビンの合成(貧血の改善)に使われるので、自覚症状がとれ貧血が改善してきても、まだ貯蔵鉄は回復していません。その回復には貧血改善後さらに2〜3カ月間の経口鉄剤投与が必要です。したがって、貧血症状が改善した時点で勝手に内服を止めるのは愚かなことです。

鉄剤服用による副作用としては、時に軽い腹痛、食欲低下、便秘あるいは軟便を訴える人がいます。こうした症状が強ければ医師に相談して、別の薬に変更したり、1回の服用量を減らすか、毎日服用できなければ1日おきの服用でもかまいません。また、副作用ではありませんが、鉄剤服用中は便が真っ黒(タール便)になることを、知っておいてください。