糖尿病

糖尿病というのは、膵臓[すいぞう]でつくられるインスリンが不足しているか、あるいはその作用が妨げられて、血糖が異常に増加する病気のことです。高血糖状態の結果として尿に糖が排泄[はいせつ]されるのです。

糖尿病のタイプと原因


糖尿病には2つのタイプがある

ブドウ糖が全身の細胞で利用されるには、膵臓[すいぞう]から出るインスリンというホルモンのはたらきが必要です。血液中のインスリンが不足すると、ブドウ糖はエネルギー源として利用しにくくなり、血糖が高くなって、尿糖も出ることになります。

それでは、なぜインスリン不足が起こるのかというと、これには2つの原因があります。ひとつは、インスリンは膵臓にあるβ[ベータ]-細胞でつくられていますが、この細胞が破壊されて、インスリンをつくれない状態になる場合です。もうひとつは、インスリンが正常につくられているにもかかわらず、その作用が妨げられている場合です。いずれの場合もブドウ糖の利用が妨げられ、血糖が増えて糖尿病になります。

インスリンをつくるβ-細胞が破壊されて起こるタイプの糖尿病では、注射でインスリンを補給しなければ血糖はどんどん高くなり、生命が維持できなくなります。このタイプを1型糖尿病といいます。β-細胞の破壊は自己免疫のしくみで起こり、主として小児に発病します。

インスリンのはたらきが不十分なタイプを2型糖尿病といいます。

過食、運動不足での肥満から糖尿病へ

欧米ではもちろんですが、アジアでも糖尿病は増えています。これは、食事が豊かになったことと、生活が便利になって運動不足となり、肥満者が増えているためです。増加している糖尿病の大部分は2型糖尿病です。太りすぎは心臓に負担をかけすぎ、肺のはたらきを抑えるだけでなく、糖尿病の原因にもなるので健康によくないのです。

太った人は、肥満度にもよりますが、そのおおよそ10〜30%が糖尿病になります。同じように太っていても、糖尿病になるかならないかは、脂肪の分布とその人の糖尿病の遺伝素因と関係しています。

糖尿病予備軍もいる

糖尿病の遺伝素因があって、膵臓[すいぞう]からのインスリン分泌[ぶんぴつ]が障害されていますと、食べすぎることによって糖尿病になるのです。したがって、家族に糖尿病の人がいて、太っている人は糖尿病になる危険性が非常に高いので、糖尿病予備軍といってよいでしょう(図6―1)。

肥満のほかに高血圧と高脂血症を伴うと、さらに糖尿病になりやすくなります。そして糖尿病になると合併症(糖尿病性血管合併症)が起こりやすいので、肥満、高血圧、高脂血症、高血糖がそろったものをメタボリック・シンドロームと呼んでいます。

インスリンは血糖を下げる作用のある唯一のホルモンですが、体内にはインスリンに拮抗[きつこう]する(反対の作用をする)ホルモンがあります。成長ホルモン、甲状腺ホルモン、グルカゴン、副腎皮質ホルモン、副腎髄質[ふくじんずいしつ]ホルモン(カテコラミン)などがそれです。このようなホルモンが増加する病気(内分泌疾患)の人もやはり糖尿病予備軍です(表6―1)。

糖尿病が進むと起こる症状


初期には無症状。早期発見に努める

糖尿病の早期には目立つ症状がありません。糖尿病が進むと、次のような特徴的な症状が出てきます。病気はいつも同じ症状を示し、同じパターンで進行をするとは限りません。からだは自律神経とホルモンによって調節されており、その影響は、各人により、また、状況によって異なるからです。

【だるさ】

一種の疲労感で筋肉の疲労と神経の疲労があります。筋肉では運動後に感じる疲労ではなく、ふだんの仕事をしても疲れやすくなるのです。神経の疲れは朝、目覚めたときに感じるだるさです。

糖尿病でだるさを感じるのは、病気がかなり進行してからです。インスリンの作用が悪いために、糖代謝だけでなく、脂肪やたんぱく質の代謝も悪くなっていくためです。

このだるさという症状は必ずしも糖尿病に特有なものではありません。過労とか、神経をすり減らしたり、睡眠不足などでも現れてきます。そのため、だるさだけではなかなか糖尿病と気づかないことが多いようです。

【のどの渇き】

糖尿病では、のどが渇くことはよく知られています。これは、高血糖状態になると、組織の細胞が脱水になるからです。血液中に大量のブドウ糖があると、浸透圧の関係で、全身の細胞からどんどん水分が失われます。すると腎臓[じんぞう]は尿量を増やして、水分を排泄[はいせつ]してしまうのです。そして、からだ全体が脱水状態となりのどが渇くのです。

こういったことは、どのタイプの糖尿病にも共通して起こってきます。それに気づかないで、のどが渇くからといって、サイダーなどの炭酸飲料を飲んでいる人が多いのですが、1本のコーラには約20〜30gの砂糖が入っていますから、これを飲むと糖尿病を悪化させるのです。

患者さんの中には、1日に5Lもの水を飲んだ例がありましたし、糖尿病になった子どもが一晩中やかんから水を飲みつづけた例がありました。かぜをひいて熱があるので、のどが渇くのだろうと思っていた患者さんもいたのです。血糖が高くなるとのどが渇くのだと認識してください。

【体重減少】

糖尿病が進むと、しだいに体重が減ってきます。糖尿病だと気づかないと、特に中年の人は、がんになったのではないかと心配してしまいます。糖尿病でも血糖が高くなると体重が減るのです。

体重が減少する理由はいくつかありますが、急激に減少するのは脱水のためです。血糖が高くなると、ブドウ糖の代わりに脂肪がエネルギーとして使われるようになるのでからだの脂肪が減るわけです。運動をして、バランスのよい食事をとって、脂肪が減り、余分な体重が減ることは望ましいことですが、血糖が高く、そのために脂肪が分解し、やせてくるのでは健康的ではありません。糖尿病による体重減少は病的で、標準体重*以下になってもまだ減少をつづけるのが特徴です。

標準体重

標準体重とは日本人の平均体重のことです。ブローカ変法という簡単な計算式で出すことができます。

標準体重(kg)=〔身長(cm)−100〕×0.9

身長が167cmなら61kgが標準体重ということになります。経験的には少し低めに出るのではないかと思います。例えば同じ167cmの身長の人でも、骨太の人ですと、これに10%の6kgを加えて67kgがその人の標準体重になります。

実際には、どれがその人にとって理想体重なのかわかっていません。このようにして計算した標準体重から20%も超えてしまえば、肥満と判断します。

肥満度を判定するのにBMI(body mass index)が使われています。

BMI=体重(kg)÷身長(m)2

正常は20〜24(22を標準体重とする)

標準体重より20%増加した人のBMIは26.4に相当します。BMI 25以上を肥満としています。

【食欲亢進[こうしん]】

糖尿病患者では食欲が亢進している*と考えられています。特に甘いものを好むようになります。また、糖尿病が悪化するといくら食べても体重が減ってきます。しかし、その状態になるまでに、ずいぶん食欲が亢進し、体重が増えてしまっている時期があるのが普通です。糖尿病患者の体重歴を調べると、発病する5〜8年前には体重が増えているようです。

食欲が亢進している

脳の視床下部には食欲中枢と満腹中枢があって血液中のブドウ糖濃度を感じて食欲を調節しています。食事の後、血糖が高くなると満腹中枢がはたらいて、これ以上食べたくないという信号を送るのですが、糖尿病ではこの調節がうまくはたらかないようです。糖尿病患者が全てそうなるとは限りませんが、食欲をコントロールできない人が糖尿病になると、治療のときに手こずります。

【多尿、頻尿】

糖尿病をラテン語で、ディアベテス・メリトス*といいます。これは甘い尿がたくさん出る病気という意味です。

尿量が増えるのは、血糖が高いと、浸透圧の関係では体組織の水分が尿として排泄されてしまうためですし、のどが渇くので水をたくさん飲むために尿量が増えるのです(多尿)。

また、夜中にも目を覚まし、何回もトイレに行くことになります(頻尿)。膀胱[ぼうこう]にためられる尿量には限度(300〜500mL)があります。例外的に糖尿病がひどくても頻尿にならないことがあります。それは、糖尿病によって自律神経が障害され、膀胱が弛緩[しかん]した場合(神経因性膀胱)です。このときは1000〜2000mLもの大量の尿を膀胱にためることができます。

ディアベテス・メリトス

ディアベテスとはサイホンのこと、メリトスは甘い尿という意味です。サイホンは、高いところから低いところへ水を流す管であり、糖尿病では、管を通って水が流れ出るように、とめどもなく尿が出ていく、ということから名づけられました。

合併症による症状

糖尿病を放っておくと、重大な血管障害のほかに、いろいろな合併症が起こります。この合併症による症状に気づいて病院へ行き、初めて糖尿病と診断されることがあります。

男性ではED*がよく知られています。女性では、陰部そう痒感[いんぶそうようかん]がつづき、病院で調べた結果、糖尿病が発見されることがあります。糖尿病の症状は多彩ですが、注意深く観察していれば、早く気づくことができるのです。油断して受診が遅れないようにすることが大切です。

ED(インポテンス)

糖尿病の病態がわかっていない時代に、中国では、糖尿病に相当するものを「腎虚〈じんきょ〉」といっていました。腎臓の病気と思っていたのです。腎虚とは、漢方の病名で、房事〈ぼうじ〉過多のために起こる衰弱症(インポテンス)の意味(広辞苑)もあります。

糖尿病の治療目標


糖尿病の治療目標は糖尿病合併症を予防することです。そのために血糖をどのくらいに正常化すれば合併症を予防できるかを考えて、次のような指標を設定しています。先ほど述べたグリコヘモグロビン(HbA1c)が5.8%未満ならコントロールは優です。5.8〜6.5%未満なら良です。6.5〜7.0%未満は可ですが、不十分と考えます。7.0〜8.0%未満なら可ですが、不良ということです。8.0%以上なら不可なのです。空腹時血糖や食後2時間血糖の値からコントロールを評価します。このような判定ではHbA1cと血糖が必ずしも一致しません。そのときはHbA1cで評価してください。

2型糖尿病の治療指針

糖尿病患者のほとんどが2型糖尿病ですから、糖尿病の程度によって、食事療法や運動療法を適正に行い、生活習慣を改善し、経口血糖降下薬やインスリン注射療法をどのように組み合わせて変えていくかが糖尿病の治療指針です。

まずHbA1cや血糖値が優または良になれば治療法は正しいと判断します。そうでなければコントロール不良と判定して糖尿病治療指針を変えていきます。この場合に食事療法や運動療法、生活改善などはいずれの場合にも重要で、基本的な治療ということを理解してください。

糖尿病の合併症を調べる


合併症は全身に現れる

糖尿病になった患者さんを長期にわたり苦しめるのは慢性合併症です。

3大合併症は、腎症[じんしよう]、網膜症、神経障害です。これらは糖尿病細小血管障害によるもので、血糖値が高くなり、栄養過多のために、おもに小さな血管に障害が起こって生じるものです。

このほかに大きな血管の動脈硬化症の病変や、循環障害のために起こる心筋梗塞[しんきんこうそく]、脳血管障害、足の壊疽[えそ]などがあります(図6―2)。また、糖尿病が病気として、患者さんを苦しめるのは糖尿病性昏睡[こんすい]*です。

糖尿病性昏睡

血中のインスリンが不足する状態では高血糖になり、ケトン体が増えて、ケトアシドーシスになります。代謝性アシドーシスが進行すると意識がなくなり、最後に昏睡になる状態をいいます。このような病型をインスリン依存性(1型)糖尿病といいます。インスリン療法を行わないと生命が失われる危険があります。

定期検査で合併症をチェックする

血管に病変を起こす危険因子は次のようなものです。

(1)糖尿病にかかっている期間

(2)肥満

(3)高血圧、高脂血症

糖尿病になって5年以上を経過して、しかも糖尿病のコントロールが悪く、異常に太っている患者さんで血圧が高い人は網膜症や腎症[じんしよう]になりやすいと考えて検査を頻繁に受けてください。

糖尿病網膜症は失明の恐れもある

網膜症は失明の恐れもある怖い合併症です。糖尿病が進んで、高血糖の状態が長くつづくと、網膜の小さな血管が傷んできます。やがて血管から血漿[けつしよう]成分が漏れ出し、周辺にむくみ(浮腫[ふしゆ])が起こってきます。検眼鏡や眼底カメラで見ると、小さな点状出血が生じており、毛細血管瘤[もうさいけつかんりゆう]ができています。この段階なら視力にほとんど影響せず、糖尿病を治療し血糖が正常化すると病変が消えることがあります(単純型網膜症)。

しかし、血管の病変が進むと、網膜に白斑[はくはん](血の塊)が生じたり、また新しい血管がつくられてきます(増殖型網膜症)。新しくできた血管は出血しやすく、硝子体出血[しようしたいしゆつけつ]を起こしてきます。このようなことをくり返していると、出血部が線維化して、いくら血糖を厳格にコントロールしても病変は消えず、失明状態になります。

糖尿病性腎症[とうにようびようせいじんしよう]は尿毒症にまで進む

糖尿病が進むと腎臓に障害が起こってきます。

腎臓の役割は血液中の不要な老廃物を尿に濾過[ろか]して排泄[はいせつ]することです。腎臓の中には非常にたくさんの毛細血管が糸を巻いた毬[まり]のように寄り集まっています。これを腎糸球体と呼び、ここで血液を濾過しているのですが、腎糸球体の毛細血管は糖尿病で血糖が高い状態がつづくと、しだいに傷んできます。そのために、本来は体外に排泄するはずの老廃物が体内にとどまってしまいます。糖尿病が10年もつづいて、しかも血糖のコントロールが悪ければ、腎臓の機能はどんどん低下して、やがては尿毒症を起こしてしまいます。

最近は、尿中の微量アルブミン(尿たんぱく)を測定することで、腎臓に障害が起こっているかどうかを早期に発見できますので、早めに検査を受けてください。

手足にしびれが起こる糖尿病性神経障害

糖尿病で血糖が高い状態がつづくと、神経細胞にソルビトール*という物質がたまり、細胞は変性を起こして、おもに末梢[まつしよう]の神経が障害されてきます。知覚神経に障害が起こると手足のしびれや痛みが現れます。自律神経*が障害されると、心臓や消化器などの内臓のはたらきが低下して、めまいや立ちくらみが起こったり、腹痛、吐き気、下痢、便秘などの症状が出てきます。糖尿病のある人はこうした症状に注意し、疑わしければ早く専門医の診断を受ける必要があります。

神経障害の特徴としては、アキレス腱反射がみられず、下肢のふくらはぎに強い圧痛があります。手袋と靴下をはく部分が特に知覚が鈍っており、振動がよくわからなくなるのも特徴です。息を吸って呼吸を止めると普通では心拍数が増加しますが、自律神経の障害があると心臓神経の反応が鈍く、増加がみられません。このような臨床症状を総合して神経障害が起こっていることを判定します。

ソルビトール

細胞はブドウ糖をソルビトールという物質に変換します。血糖が高いと、このソルビトールがたくさんできすぎて細胞内にたまり、細胞は変性を起こしてしまいます。

自律神経

呼吸、脈拍、血圧、体温、発汗、排尿、排便など、自分の意志で左右できない臓器や器官のはたらきを調節しているのが自律神経です。

免疫力低下で感染症にかかりやすくなる

糖尿病の患者さんは、感染を起こしやすいことが知られています。特に注意したいのは、足の壊疽[えそ]です。壊疽は神経障害や血管障害で血液の循環が悪いうえに細菌の感染が加わって起こります。手や足を不潔にすると感染しやすいので、下肢の衛生によく注意し、足を観察する習慣をつけましょう。いつも足を清潔にする、機械的圧迫がかからないようにする、血液の流れが止まらないようにし、小さなけがを放置しないで、早めに処置することなどが大切です。

肺炎や結核などの呼吸器の感染や、尿路の感染も起こりやすいのです。腎症[じんしよう]や神経障害があると、膀胱[ぼうこう]から尿が尿管のほうへ逆流しやすくなり、膀胱炎から腎盂炎[じんうえん]を起こします。

合併症があるときの注意

糖尿病性腎症[とうにようびようせいじんしよう]のある人では、むくみが起こります。腎臓が悪いことがわかったなら、水の飲みすぎに注意しましょう。食塩のとりすぎは浮腫[ふしゆ]を誘発し、また、血圧にもよくありませんので1日に5〜8gに制限しなければなりません。

糖尿病網膜症のある人では視力が低下します。失明はもっとも避けたいことです。といって、あまり神経質になる必要はありません。理由もなく眼底出血をくり返すことはないからです。

視力と関係する目の合併症は、網膜症のほかに白内障[はくないしよう]があります。普通の眼底検査では白内障を見つけることはできませんので、眼科で診断してもらう必要があります。1年に1回は眼科に行ってください。

糖尿病性神経障害があって不快な症状がつづくときは、足の血流が増加していることが多いのです。人間は立位で運動し、仕事をするものですから、糖尿病で循環障害があると、よけいに重力の影響を受けて下肢の血流が増えるのです。手足の衛生に注意すること、これは何度くり返しても言いたりません。一度壊疽[えそ]になってからでは遅いのです。

合併症を予防するための治療


治療目標のところですでに述べましたが、糖尿病の治療目標は合併症を予防することです。そのための治療法には次のようなものがあります。

食事療法と運動療法、規則正しい生活、そして、薬物療法が大きな柱です。

食事療法の基本

糖尿病の食事療法については後で述べることにして、ここでは合併症を防ぐための食事の基本についてまとめておきましょう。

(1)血糖を正常にコントロールすることです。糖尿病性合併症の多くは動脈硬化性の血管病変によるものですから血管障害を起こさないよう注意します。ですから食事のコレステロールを制限しなければなりません。

(2)ふだん食べているものを基本にして糖尿病に見合った食べ方に変えていくことです。糖尿病のための特別の食事があるわけではないのです。健康を維持するための食事と差はありませんから、あまり考えすぎないようにしましょう。

(3)何を食べてもよいのですが、量を食べすぎないことです。食品は栄養素のバランスをよく考え、食品の種類を多くとるようにしましょう。

運動療法の基本

からだを動かすことは健康によいことですから、重い心臓の病気がなければ、運動をすすめます。

運動で汗をかくのは血糖を下げるだけでなく、心臓や肺の機能を増強し、筋肉を丈夫にする効果があります。糖尿病のコントロールがよければ、適切な運動療法は合併症を防ぐよい方法です。

成長期にある若年者では、心肺機能を強くする必要があるので、スポーツを含め、その人に合った強めの運動を体力の許す範囲で力いっぱい行うべきでしょう。

中年の患者さんでは、慣れた運動を持続すべきでしょう。そうでなければウォーキングとか体操程度の運動を毎日30分ぐらいつづけるとよいと思います。

お年寄りになりますと、運動をして転倒して骨を折るというケースが時にあります。骨折り損のくたびれもうけとならないようにくれぐれも注意しましょう。

注意したいのは、インスリン注射をしている糖尿病の患者さんの場合です。年齢を問わず、インスリン注射をして血中のインスリン濃度が高いときの運動は、血糖を下げすぎて、低血糖を起こす危険性があります。また、逆に血液中のインスリンが不足しているときの運動は、血糖を上昇させることがあります。

血糖を下げようとして際限なく強い運動をする人がいますが、これは間違いです。心臓、腎臓[じんぞう]、目などの動脈硬化性の病変が著しい人では、激しい運動は症状を悪化させます。運動中、運動後に、脈拍数がふだんの2倍以上にならないようにしましょう。

【運動処方】

まず運動をしてよいかどうか、心臓と肺の機能を調べ、判定してもらうことが大切です。高齢者では関節の障害をもっていることがありますので、その機能を調べておくことも必要です。

次に運動のしかたと運動量を処方してもらいます。運動には、筋肉を緊張させる静的な運動と、筋肉を収縮させる動的運動の2つがあります。運動は楽しいものでなければなりませんので、全身を使うリズミカルなものがよいでしょう。

また、簡単にできるものが望ましく、いつでもどこでもできるタオルを使って行う体操がすすめられます。もちろん、マイペースのジョギングとか水泳(ゆったり泳ぎ)もよい運動です。プールでは水中歩行のほうがただ泳ぐより運動になります。

運動の強さは、最大酸素摂取量の60%が適当といわれています。目安としては、ふだんの心拍数(脈拍数)の2倍が限度です(1分間に130拍)。運動時間は、各人に合わせ、回数は週3回以上が望ましいと思います。

薬物療法の基本

【内服薬】

治療目標のところで述べたように、食事に気をつけて、運動をきちんと行っても、血糖が下がらない場合があります。自分のインスリンが十分にはたらいていないからです。その場合には内服薬が処方されます。これを経口血糖降下薬*療法と呼びます。

薬物療法は、食事・運動療法で血糖をきちんとコントロールしないままで、この薬を飲みつづけても合併症の予防にはなりません。薬の飲み方は食事前がよいとされていますが、食後でもかまいません。要は、薬を飲む時間は一定にしたほうがよいということです。

経口血糖降下薬(内服薬)

スルホニル尿素薬:インスリンを血液中に放出させるはたらきや、肝臓から放出されるブドウ糖の量を少なくするはたらきがあります。

ビグアナイド薬:筋肉でブドウ糖の放出を少なくさせるはたらきがあります。

α〈アルファ〉-グルコシダーゼ阻害薬:小腸内で2糖類を分解してグルコースにする酵素を阻害して、食後血糖の上昇を抑えます。

チアゾリジン阻害薬:肥満糖尿病に効果があります。脂肪細胞に作用して、インスリン抵抗を抑えて血糖を下げる薬です。

フェニルアラニン誘導体:スルホニル尿素薬と同じような機構ですが、作用時間が短くて、食後血糖を抑えます。

【インスリン療法】

内服薬でどうしても血糖が下がらなければ、インスリン注射が必要になります。注射がいやなので、逃げまわっている患者さんがおられますが、その気持ちがわからないわけではありません。しかし、糖尿病の合併症を防ぐのにどうしてもインスリン注射が必要なら、そうもいきません。子どもでも自分で注射しているのですから、インスリン注射はそれほど難しいわけではありません。最近の注射針はきわめて細いのであまり痛くないのです。合併症を防ぐためには、これらのことをよく理解して注射を始めてください。

注射のやり方は主治医や看護師に指導してもらってください。使い捨ての注射器はインスリン1mL100単位のものを使います。ペン型注射器やジェット式注射器も使われています。