ヘルニア

おなかの中の臓器が、腹膜に包まれたまま、腹壁[ふくへき]などの弱い部分や、わずかのすきまから脱出したものを総称してヘルニアといいます。脱出部位であるヘルニア門、脱出臓器であるヘルニア内容、それを袋のようにおおう腹膜からなるヘルニア嚢[のう]の3要素からなります。

横隔膜ヘルニア


腹腔[ふくくう]内臓器が、横隔膜[おうかくまく]に生じた先天性または外傷後にできたすきまを通って、胸腔内[きようくうない]に脱出している状態を横隔膜ヘルニアといいます。横隔膜ヘルニアの中でもっとも多いのは食道裂孔[しよくどうれつこう]ヘルニアです(図5―17)。横隔膜を通る食道の孔[あな](食道裂孔)が異常に大きい場合、そこから胸腔の中へ胃が脱出してしまう病気です。そのため、胃内容の食道内逆流が起こり、いろいろな症状が起きてきます。

無症状のものもありますが、おもな症状は、胸やけや胃の膨満感、ものが飲み込みにくい、熱く苦い液体がこみ上げてくるなどです。胃液の食道内逆流が激しくなると、逆流性食道炎を起こし潰瘍[かいよう]やびらんができ、出血を招きます。

ひどい場合は手術もする

治療は内科的治療が主となり、上半身を高くして、酸を中和する薬を与え、消化しやすい食べ物を少しずつ分けて食べるなどの養生が必要です。

内科的療法が効かなくて貧血が進み体重減少を招く場合や、胃の胸腔内脱出が著しく、かつがんこな胃内容の逆流で食道炎がつづくために、食道に潰瘍ができたり食道が狭くなったりする場合は、手術しなければなりません。

最近では腹腔鏡下に手術ができるようになり、早期退院、早期復帰が可能です。

鼠径ヘルニア


ももの付け根が腫れる病気で、俗にいう脱腸のことです。小児で生まれつきのものが多いのですが、お年寄りにも起こります。

男児では、妊娠5カ月の胎児のころから、腹腔[ふくくう]内にあった精巣が下降を始め、鼠径管[そけいかん]といわれるトンネルをくぐって、陰嚢[いんのう]の中におさまります。このとき腹膜をかぶったまま下降し(鞘状突起[さやじようとつき])、自然に閉じます。この鞘状突起が、何かの原因で閉じないことがあると腸管などの内臓が、この中へ脱出してきます。これを鼠径[そけい]ヘルニアといいます。女児では、男児の精巣に相当する卵巣は腹腔にとどまりますが、鞘状突起は男児と同じようにあるため、それが閉じない場合はヘルニアが起こり得ます。

ヘルニアの嵌頓[かんとん]を起こすと危険

ふだんは、なんともなくても、泣いたときや立ったときに、ももの付け根が腫れてきます。寝かせて軽く押さえると、元に戻ります。出ていないときは症状はほとんどありませんが、出ているときは、局所の不快感や鈍痛があります。乳児ではただ泣くぐらいでしょうから、おむつを換えるときなどに母親が見つけることが多いものです。

ヘルニア嚢内[のうない]に腸が入り込んだまま戻らない状態は、嵌頓[かんとん]ヘルニアといってたいへんこわい状態です。腸がヘルニアの入口で締めつけられて(絞扼部[こうやくぶ])、血液が腸に十分行かなくなり、長時間放っておくと、腸が腐ってしまい致命的になることがあります(図5―18)。

鼠径[そけい]ヘルニアの治療と対処法

鼠径ヘルニアは自然治癒は少なく、確実に治すには手術以外にありません。腸が出るのを恐れて、子どもにスポーツや遊びを制限しつづけるのはかわいそうです。

手術はヘルニア嚢[のう]を切除し、鼠径管を補強します。

手術する時期は、以前は就学期前ともいわれていましたが、麻酔そのほかの管理が進んだ今日では、嵌頓[かんとん]の危険が乳児期に高いことも考えあわせると、なるべく早く手術したほうがよいといわれています。

しかし、年齢が低いほど、手術も難しくなるので、特に1歳未満の乳児は熟練した外科医、麻酔科医のいるところで手術をするのが理想的です。

小児は全身麻酔で、成人は腰椎麻酔[ようついますい]で行います。入院期間も小児の場合は2泊3日ぐらいですみ、再発率はゼロと考えてよいでしょう。成人の場合は、最近ではメッシュ(人工的な布)を用いて弱くなった組織をおおう方法が開発され、入院期間も以前に比べ短くなりましたが、まれに再発することもあります。

腹壁ヘルニア


いちばん多いのは、腹壁瘢痕[ふくへきはんこん]ヘルニアで、外傷後や、手術後に起こります。ほとんどは手術後で、腹部の縫い合わせたところから発生し、手術後の化膿[かのう]や、管の使用が原因です。起立したり腹圧をかけたときに、傷あとが膨隆し、痛みや、便秘、消化不良が起こります。治療は大きさや自覚症状にもより、保存的処置もあり得ますが、完治させるにはヘルニアの部分をもう一度開いて縫いなおす手術を要します。また大きい場合、人工的な布でおおうこともあります。