尿失禁

自分の意志に反して勝手に(不随意に)尿が漏れ、これが衛生的にも社会的にも問題となる状態を尿失禁といいます。直接、生命をおびやかすものではありませんが、尿失禁があると日常生活はとても不便で、“生活の質”が損なわれるばかりでなく、精神的にも大きな圧迫感や不快感をもたらすものです(図13―13)。

尿失禁のタイプと治療法


尿失禁”は症状を表わす言葉で、病名ではありません。いろいろな原因で起こる尿失禁は、次のようなタイプに分けられます。

【腹圧性尿失禁】

せきやくしゃみ、テニスなどの運動、あるいは重いものを持ち上げたときなど、急におなかに力が加わったときに尿が漏れるタイプです。健康な中高年女性の尿失禁の多くはこのタイプで、原因は、尿道あるいは膀胱[ぼうこう]や子宮を支えている筋肉(骨盤底筋群)が弱くなったためと考えられています。

治療法には骨盤底筋体操、薬物療法、手術療法などがあります。骨盤底筋体操は、自分で毎日肛門や腟をしめる運動をくり返して、弱くなった骨盤底筋群を強くするもので(図13―14)、軽症から中等症の場合はかなり効果があります。

尿道を締める力を強めて尿漏れを防ぐ薬物療法も有効ですが、これだけで完治できることは少ないので、骨盤底筋訓練を併用するようにします。これらの治療でも腹圧性尿失禁が治らない場合は、手術療法も行われます。最近は、TVT法という新しい方法が多く行われるようになりました。これは幅1cmの人工素材のテープを下腹部から膀胱のわき、尿道の下を通してまた下腹部にぐるっと回して、尿道がぐらつかないようにする方法です。入院も0〜3日と大幅に短縮されました。

【切迫性尿失禁】

尿意を感じるとすぐにトイレに行きたくなって(尿意切迫感)、間に合わずに尿が漏れてしまうタイプです。尿がある程度、膀胱にたまると膀胱が勝手に収縮して(無抑制収縮)、尿が漏れてしまうのです。

代表的な原因は脳卒中の後遺症やパーキンソン病ですが、男性では前立腺肥大症が原因になったり、中高年層の女性では原因が明らかでないことも多くあります。最近はこれらの一連の症状をまとめて“過活動膀胱”というようになりました。

おもな治療法は薬物療法です。これは膀胱の無抑制収縮を抑える作用をもつ抗コリン薬によって、頻尿や切迫性尿失禁を治そうというもので、無抑制収縮のみられる切迫性尿失禁の7〜8割は内服療法が有効です。排尿をがまんして、排尿間隔を少しずつ延ばす訓練(膀胱訓練)も有効です。これが無効の場合は電気刺激療法や、特殊な場合は膀胱を大きくする手術が行われることもあります。

【反射性尿失禁】

尿が膀胱にたまっても、大脳で尿意を感じたり排尿を抑制することができずに、ちょうど赤ちゃんの排尿のように反射的に尿が出てしまうタイプです。

これは、脊髄[せきずい]のいろいろな病気によって起きてくることがありますが、いちばん多いのは脊髄損傷です。尿失禁ばかりでなく排尿がスムーズにできないことも多く、時には腎臓[じんぞう]にも悪影響がありますので、泌尿器科専門医による総合的な診断と治療が必要です。

【溢流性尿失禁[いつりゆうせいにようしつきん]】

膀胱内に大量の残尿があって、さらに尿がたまるとあふれるように尿が漏れるタイプです。進行した前立腺肥大症や、骨盤腔内[こつばんくうない]の手術後(子宮がんなど)、あるいは糖尿病などが原因で膀胱の神経が障害を受けたときにみられます。

治療は原因によって異なりますが、普通は前立腺肥大症なら手術がすすめられ、骨盤腔内の手術後の場合はおもに自己導尿法(1日4〜7回自分で導尿する)が行われます。

【機能性尿失禁】

全身の運動機能、特に下肢の機能が低下して歩行ができなくなったお年寄りなどが、尿意を感じてトイレに行こうとしても、介助者がくるまでに時間がかかっている間に尿が漏れてしまうようなタイプを、機能性尿失禁といいます。これは、前に述べてきたタイプとは異なり、明らかな神経や構造上の異常はないのが普通です。

ですから、対処方法は十分なリハビリテーションで運動能力を高めるほかに、起きやすいベッドにしたり、トイレの位置を工夫するなどが必要です。

最近、なんとなく歩きにくい