乳がん

急激に増加している乳がん

乳がんは乳腺[にゆうせん]にできる悪性の腫瘍(できもの)の中でもっとも多いものです。乳がんは欧米の女性に多くみられ、日本人女性はその約5分の1程度と少なかったのですが、最近急に増えてきています。すでに西暦2000年には、女性のかかるがんの第1位になって30〜60歳の女性の病気による死亡原因の第1位となっています。

乳がんが増えた原因としては、生活様式が欧米化したこと、とりわけ食生活の変化が大きいといわれています。高たんぱく質・高脂肪、高エネルギーの食事により、日本人の体格も以前より向上して女性の初潮が早く始まり、閉経の時期も遅くなって月経のある期間が延びました。その結果、乳がんの発生や進行に関係していると考えられる女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受ける期間が長くなったことが、乳がんの増加に関連しているようです。

乳がんにかかりやすい人として、

(1)30歳以上で未婚の人

(2)30歳以上で初めてお産をした人

(3)55歳以上で閉経した人

(4)標準体重の20%以上の肥満のある人

などが挙げられています。また、母親や姉妹が乳がんになった人や、以前に片方の乳房に乳がんができた人も注意が必要です。

なお、乳がんにかかる人はほとんど女性ですが、女性の約100分の1の割合で男性にもみられます。

乳がんのおもな症状


乳がんはほかの臓器のがんとは異なって、疲れやすくなったり、食欲がなくなってやせてくるなどの全身的な症状が、はじめはまったくないことが特徴です。

【しこり】

乳がんの大部分は、乳房のしこりという症状で見つかります。乳がんのできやすい場所としては、乳房の外側上方が約50%ともっとも多く、次いで内側上方、乳首の下、外側下方、内側下方の順となっています(図8―34)。

【乳房のえくぼ症状(ひきつれ)】

乳がんのしこりは、普通、表面がでこぼこしていてかたく、押しても痛みはありません。しこりを指ではさんでみると、皮膚にえくぼができたり、乳首がひっ込んできたりすること(陥凹[かんおう])があります。

【乳房のただれ】

病気が進むと、しこりの動きが悪くなり、表面の皮膚が赤くなったり、崩れてきて汚い膿[うみ]が出てきたりします。

【わきの下のぐりぐり】

わきの下のリンパ節がかたく腫れてきます。さらに進むと、骨・肺・肝臓などに転移して、強い痛みやせき、黄疸[おうだん]などの症状が現れます。

【乳首からの異常分泌[いじようぶんぴつ]】

乳がんが発見されるそのほかの症状としては、乳首から血液の混じった分泌液が出てくるケースがあります。

【特殊なタイプの乳がん】

乳首に治りにくいただれや湿疹[しつしん]ができるパジェット病という特殊なタイプの乳がんや、乳房の皮膚が夏ミカンの皮のように厚くなり赤くなってくる炎症性乳がんと呼ばれる、非常に治りにくい乳がんもまれにあります。

乳がんの治療


早期がんでは温存も可能

乳がんの治療法は、乳がんの進み具合によりいろいろな方法が選ばれます。普通は、まず、手術により乳がんをできるだけ取り除く治療を行います。

従来は、乳房と胸の筋肉とわきの下のリンパ節をひと塊として完全にとってしまう手術(ハルステッド手術)が定型的乳房切除術として行われていました。しかし、手術後に腕が腫れて動かしにくくなり、あばら骨が浮き出て見えるためほとんど行われなくなっています。代わりに胸の筋肉は残して、乳房とわきの下のリンパ節をとる手術(胸筋温存乳房切除術)が行われるようになりました。

乳房温存療法が標準的な術式に

そして現在では、早期に発見された乳がんに対しては、乳房を全部切りとらずに、しこりの部分だけを取り除いて、残した乳腺に放射線をかけるという乳房温存療法が盛んに行われるようになりました。

2003年には日本でも乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになり、標準的な術式となりました。1999年には日本乳癌学会から乳房温存療法のガイドラインが示されています(表8―12)。それによると、しこりの大きさが3cm以下で、マンモグラフィー、超音波、CT、MRIなどの画像検査によって乳房の中でがんが広範囲に広がっていないことが挙げられています。また、しこりが3cm以上でも術前に化学療法を行ってしこりが十分に小さくなれば可能であるとされています。

わきの下のリンパ節もたくさんとらない

どの術式で手術を受けるかは主治医から両術式のそれぞれの長所と短所を十分に説明を聞いてから決める必要があります。

また乳がんの手術の術式では乳房の切除する範囲は従来よりかなり小さくなってきましたが、最近はわきの下のリンパ節もたくさんとらない方法も検討されています。それはセンチネルリンパ節(見張りのリンパ節)という最初にがんが転移をするリンパ節を手術中に見つけて、そこに転移がなければわきの下のリンパ節はそれ以上はとらないという術式です。

この方法はまだ確立はされていませんが、患者さんにとっては腕の痛みやむくみなどの障害が出ないので今後急速に普及していくと考えられます。

転移、再発、予防の補助療法が行われる

乳がんはしこりが小さくても、すでにわきの下のリンパ節に転移していたり、血液の中に入って遠くの臓器に広がっていることもあります。

転移の疑いがある場合、術後の再発予防のために抗がん薬やホルモン薬による治療を加えると、再発の危険性が30〜50%減ることがわかってきました。

最近は、抗がん薬やホルモン薬に副作用が少なく、よく効く薬が開発されてきて、再発後の治療にも効果を上げています。

(西 常博)