胃・十二指腸潰瘍

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)は、胃腸疾患の中でももっともよくみられる病気のひとつです。また、胃・十二指腸潰瘍は良性の病気でありながら、再発をくり返すことが多く、働き盛りの中年男性がかかりやすいために、通院治療や入院による時間的、経済的損失は大きく、社会的にも重要な病気であるといえます。

欧米では、消化性潰瘍のうち十二指腸潰瘍が過半数を占めています。わが国においては、従来、胃潰瘍が十二指腸潰瘍に比べ2〜3倍多かったのですが、最近、十二指腸潰瘍が増加しており、特に大都市では胃潰瘍とほぼ同じ程度にみられます。

胃・十二指腸潰瘍の原因、診断、治療については、近年、大きく変化しました。

ひとつは、有効な薬剤の登場です。H2受容体拮抗薬[きつこうやく]やプロトンポンプ阻害薬といった強力な胃酸分泌抑制薬[いさんぶんぴつよくせいやく]の登場により、症状は早期に改善し、潰瘍も治癒が促進され、手術の必要な患者さんも激減しました。

もうひとつの大きな変化は、1982年に、オーストラリアで発見されたヘリコバクター・ピロリ(Hericobacter pylori)という細菌(ピロリ菌)によって、潰瘍の原因や治療の考え方が変わったことです。胃・十二指腸潰瘍患者の中で、大部分の方には、胃の中にピロリ菌が感染していることが確認され、さらに、このピロリ菌を除菌すること(除菌療法)により、再発率が極端に減少することがわかってきました。日本でも、2000年に、胃・十二指腸潰瘍に対するピロリ菌の検査法や除菌療法が保険適用となり、現在では、除菌療法は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍になった場合、まず、最初に考える治療法となっています。

胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因


ピロリ菌の感染が原因

ピロリ菌は、自らが産生するサイトトキシンなどの強力な胃粘膜障害因子により潰瘍を引き起こします。また、人体側がピロリ菌に反応してつくり出されるサイトカインなども潰瘍発生に関係していると考えられています。ただし、ピロリ菌に感染している人が全て潰瘍を発症するわけではありません。日本人では、潰瘍のない方でも、50歳以上では70〜80%がピロリ菌に感染しています。潰瘍になるには、ピロリ菌の存在だけではなく、ほかの因子(生活習慣やストレスなど)が加わってつくられると考えられています。

消炎鎮痛薬などの薬剤が原因

一方、潰瘍を引き起こす薬剤の代表的なものが痛み止めや解熱薬として使われている非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)です。NSAIDsはかぜなどの発熱時やリウマチ、整形外科領域の疾患に対して、日常よく用いられる鎮痛解熱薬です。また、高齢者では、心筋梗塞[しんきんこうそく]や脳梗塞の予防にアスピリンを服用している方が増えていますが、このアスピリンもNSAIDsの一種で、服用により潰瘍発症リスクが増加するとされています。これらの薬は、直接胃粘膜を障害するだけでなく、胃を保護するはたらきがあるプロスタグランジンという物質をつくる力を低下させたり、胃粘膜の血流を減らしたりすることによって潰瘍を起こすと考えられています。

潰瘍のできる部位とその特徴

胃潰瘍はできる部位によって、発症する年齢や胃の病態が異なっています。

胃の入口に近い胃体部にできる潰瘍は、高齢者に多くみられ、胃酸を分泌[ぶんぴつ]する能力(胃酸分泌能)は低く、胃酸の少ない状態になっています。

胃の中ほどの胃角部[いかくぶ]および胃角部周辺にできる潰瘍は、若年者から高齢者まで広くみられ、胃酸分泌能はほぼ普通で、胃から食べ物を排出する機能(胃排出能)が低下しています。

胃の出口に近い幽門前庭部[ゆうもんぜんていぶ]にできている胃潰瘍は、比較的若年者に多くみられ、胃酸分泌能は亢進[こうしん]しています。

十二指腸潰瘍については、ほとんどの潰瘍が十二指腸の入口である十二指腸球部[じゆうにしちようきゆうぶ]にできます。病態は、胃の出口に近い部位にできた潰瘍に似ており、比較的若年者に多く、胃酸分泌能は亢進しています。

胃・十二指腸潰瘍の症状


胃や十二指腸に潰瘍[かいよう]ができると、普通、心窩部[しんかぶ](みぞおち)に痛みを感じます。痛みの程度はさまざまです。胃潰瘍の方の中には、ほとんど痛みなどの症状を訴えず、成人病検診や人間ドックで初めて見つけられることもあります。

痛みは食事摂取と関係していることが多く、約半数の人は空腹時に痛みを訴えます。夜間の痛みは、十二指腸潰瘍に多くみられます。空腹時痛および夜間痛は上腹部の不快感で始まり、牛乳や軽食の摂取で軽快する傾向があります。また、精神的ストレス、疲労、生活の乱れ、睡眠不足などは痛みを増強させます。

痛み以外には胸やけを比較的多く訴えます。また、空腹を感じやすく食欲がかえって増進している、なんとなく胃の存在を意識するなどといった症状を訴える場合もあります。

危険な状態は出血、穿孔


胃・十二指腸潰瘍では、潰瘍からの出血や、潰瘍が深くできて胃や十二指腸の壁が破れる(穿孔[せんこう])などの危険な合併症を起こすことがあります。このような状態では、至急、医療機関を受診し治療を受ける必要があります。

潰瘍からの出血は、吐血や下血としてみられます。下血は普通“のりのつくだに”のような黒色の便をしています。潰瘍からの出血がひどく、出血量が多い場合には、顔面蒼白[がんめんそうはく]、めまい、冷や汗、頻脈、血圧低下などのショック症状を表わすこともあります。出血の治療には、通常、入院が必要となります。

胃・十二指腸潰瘍の治療


図5―10には、2003年4月に作成された「胃潰瘍診療[いかいようしんりよう]ガイドライン」による胃潰瘍治療の基本方針を示します。十二指腸潰瘍の診療においてもほぼ同様と考えられています。

潰瘍の治療においては、まず、出血性潰瘍でないことを確認した後には、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)を服用していたかどうか、ピロリ菌が陽性かどうかを調べます。NSAIDsによる潰瘍の特徴としては、自覚症状に乏しいこと、高齢者に多い、胃潰瘍が十二指腸潰瘍より多いことなどが挙げられます。消炎鎮痛薬を服用していた場合には、薬を中止するのが原則ですが、中止できないような場合には、主治医の先生とよく相談して併用する薬の種類など工夫する必要があります。

ピロリ菌の除菌療法

ピロリ菌が陽性の場合には、ピロリ菌の除菌療法を考えます。ピロリ菌の除菌療法は、胃酸分泌抑制薬[いさんぶんぴつよくせいやく]であるプロトンポンプ阻害薬と、抗生物質のアモキシシリン、クラリスロマイシンの3種類の薬を1週間服用する3剤併用療法です。表5―4に実際の処方と服用のしかたを示します(アモキシシリンはペニシリン系の薬剤ですので、ペニシリンアレルギーの方は現在のところ除菌療法はできません)。

服用のしかたの注意点としては、7日間毎日きちんと服用する必要があります。中途半端な服用では、除菌効果は下がってしまいます。また、副作用として、軽い下痢がよくみられます。服用は可能ですが、強い腹痛を伴う下痢や血液が混じった便が出る場合には、服用を中止し、主治医と相談しましょう。

除菌療法後に検査を行う

除菌が成功したかどうかを判定する検査は、偽陰性を避けるために除菌療法が終了し4週間以上たってから行います。除菌成功率は80〜90%です。100%除菌されるというわけではありません。除菌療法がうまくいき、ピロリ菌がいなくなった場合にはその後1年間の再発率は極端に低下し、10%程度といわれています。

なんらかの理由で除菌治療が行えない方、あるいは除菌療法が不成功に終わった方は、従来からの、潰瘍再発を抑制するための維持療法を行います。プロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬[きつこうやく]が有効です。

除菌療法が不成功に終わった方に対して、次のステップとしてどのような薬剤の組み合わせで除菌療法を行うか、薬剤の種類や量などについて、現在、検討がなされています。

(三輪 剛・原 雅文)